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愛の叫び

貴族であること

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貴族であること


「慣れない体とはどういうことだ」
「言葉通りだ。このメルドーとかいうやつの体を乗っ取った」
「人の体を乗っ取るなんて、そんな簡単にはいかないはずだ」
メルドーはその言葉にニヤリとする。
「俺にとっては簡単なものだ。どこにでも穴はある。この男はそれなりに地位がある男だな」
確かにメルドーは兵士長の地位にいる。
「しかし、こいつはその地位に飽き足らず、どんな手段をとっても上に行きたかった。ただ、目の前にいる人物がそれを邪魔をする」
ジークレインは水の剣を握りしめる。
「こいつの家系は貴族だそうだな」
「そうだ」
「だが、こいつの上司は平民だ。しかも自分よりも魔力を持っている。頭も良い。上司の後ろを歩いているこいつの顔は、醜く歪んでいて滑稽だったな」
「そこを狙ったのか…」
メルドーは確かにあまりいい評価を得ていなかった。貴族であることを鼻にかけていたのだ。それはジークレインも知っている。上司のジェファーは平民の中では飛び抜けた才能を持っていて、それはあまり口数が少なく、表情にあまり変化がなくても、ジェファーの前の上司はジェファーが常に周りを見て行動しているのを知っていた。激情に任せる上司よりも、冷静に判断できるものが上に立つものだと分かっていた為、ジェファーを推薦したのだ。
その理由を他の兵士にも説明したが、一番反対していたのがメルドーだった。それでも王の了承が得られたものだから、我慢するほかなかった。日に日にメルドーの黒い部分が増えていく。そこを敵に狙われたのだ。
「これほど乗っ取りやすい体はなかったな。失敗した奴も消せたことだし。あの王女もまたその内始末する」
ふーん、とジークレインが水の剣をメルドーに向ける。
「次はないぞ。なぜなら俺たちがお前を捕まえるからな」
剣の先から水の塊が噴き出す。メルドーは疾風や短剣で切り掛かる。水の塊を避けながら、ジークレインを襲う。短剣がジークレインの左腕を切りつける。とっさに避けたが浅く切れた。ジークレインはまた水の塊をメルドーに向ける。どんどん切られていく。
『おい、ジークは押されていないか?』
敵を炎で焼きつくしたり、尻尾でなぎ倒したりしている。アトランも周りに集まっている敵を蹴り、吹き飛ばしている。
「ジークを気にしてたらこっちがやられちゃうよ!」
「早くこちらを片付けないと、体力が無くなります」
リンデューンも剣で応戦する。ジェファーは敵が出てくる影に向かってブツブツ呪文を唱えている。その手元にあるのはいつも持ってる本だ。パラパラとページがめくられていく。
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