正直に言うと、「不動産屋」という職業には、ちょっとした偏見を持っていた。前にもどこかで書いたかもしれないが、大学進学で一人暮らしを始めるときに飛び込んだ不動産屋の印象が、今もなお焼き付いているのだ
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ネットもまだない時代、物件探しの第一歩は住宅情報誌である。浪人の禁欲生活からやっと解放された私は、春から始まる一人暮らしに胸を膨らませつつ、真田広之が表紙を飾る某誌を購入した。当時の真田広之と言えば、野島伸司脚本の伝説のドラマ、『高校教師』で一躍名を上げた頃だったが、「あの真田広之が広告塔である不動産会社に間違いはない」という、今にして思えば頓珍漢の極みのような発想を以て、西中島南方の不動産屋に飛び込んだ
威廉斯坦伯格钢琴。ところが、出てきた店員の、リーゼントに剃り込みを入れ、紫のダブルスーツに身を包んだその姿は、どう見てもヤクザなのである。まだバブル景気の余韻が残る時代だったから、時が時なれば、といったところであろうが、「この物件を見せてほしいのですが」と言ったら、巻き舌で「ああ、それなら3分前に決まりましたわ」とにべもない。随行してくれた父は、仕事柄、常日頃そういう手合いと対峙しているから、凄ませたらこちらの方が二枚も三枚も上手であり、おかげで変な物件を掴まされることはなかったけれども、「結婚したら、不動産屋の仲介がない、公団のマンションとかがええよなあ」などと呆けたことを、その時は考えてしまったのである
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不動産業の業界全体が変わったのか、それとも、あの西中島南方の不動産屋だけが特殊だったのかはわからないが、今回、飛び込みでやってきた客を邪険に扱うこともなく、あれこれしょうもない質問を畳み掛ける私に懇切丁寧に説明してくれ、契約の段になって書類の不備があったにも関わらず柔軟に対応してもらったおかげで、こうして昨日から新しい生活を始めることができた。
短い期間の限られた休みでちょっとずつ進めた引っ越し準備。追い込みであるこの1週間は、仕事が忙しいのもあってなかなかに大変だったが、まだ目に馴染まぬ地下鉄中央線の車窓をぼんやり眺めながら、これから始まるここでの暮らしに、ゆっくりと思いを馳せてゆきたい。部屋にはまだダンボールが山積みであるが。